メモより

京都駅に戻って城崎行きの特急列車に乗る。日が落ちて雨が降ってくる。電車は少し古くて笑えるほどよく揺れた。城崎に着いたらとりあえずは蜂の死骸のことを喋る。実際縁りの宿の看板には分りやすく作家の名前が記してある。通りに面したその宿の二階の木製の窓枠を眺めてはみるけれどそれだけ。ある程度大きな虫の亡骸は、あたいだって距離をおいて眺めたい。
居酒屋で温泉街の遅い夕食。つきだしの零余子が美味しい。立寄り湯の露天に入る。部屋に帰ってテレビをつける。人と一緒に見ればバラエティ番組も苦にならない。
翌日は朝寝坊をして、駅前でかに料理を食べて、お土産屋を見て、宿に戻って浴衣に着替えて夕べとは別の立寄り湯をめぐる。どこに行っても関西のイントネーションしか聞こえてこない。こちらに来て二日目だけれどまだどこかその語調になじめずにおり、しまいには少しのぼせた頭で“会話の通じる外国”に来ているんだと妄想。様式上、北国の人間特有の肌色を広範囲でさらすことになるので、こちらの人の目にはあたいもほんのり“外国の人”に見えているのかも知れない。少なくとも彼女から見ればそうらしい。