ノーマルクロームメタリック

気付くと世界は全て茶色がかっていて、これは恐らくノーマルの表面を通して届く光。私は急に古いカセットテープの中に入り込んだので、情況を把握するために景色に目を凝らしました。生まれ育った町の春のお祭を納めたテープは相当古いようで、目の前で催されている女性コーラスもまるで口パクのよう、音がとても劣化しているのでした。耳を澄ましてやっとその合唱は「あの鐘を鳴らすのはあなた」だということが分りました。祭囃子も消え入りそうな高音が、しかし絶え間なく流れます。広場の中央に町の男性が何人が集っていて、ひとりの青年がずっと私のほうを見ていたので、ああ、彼は若い頃の父なのだ、とぼんやり気付いたのだけれど、声をかけようとしたとたんその情景は消え(その世界の音域レヴェルではもう、私が普通に発する声量を受け止めきれなかった)、瞬間にそれは父ではなく祖父だったのだと直感しました。父と祖父に血のつながりはなく、似てもいないのに、どうしてそう思ったのかしら。